『LAMB/ラム』はラム肉のラムであり、メリーさんの羊の羊のことです。
こんな明るいうちから寝ちゃうの?と戸惑ったのはアイスランドの白夜のせい。
ゴツゴツした岩肌が覆う荘厳な山と、色の薄い空とその下に広がる色の薄い草しかない荒涼とした自然。
毎日、黙々と数百の羊に餌やりをしてから、草原へと放牧し、また羊舎へと追いたてる生活は、ハイジのファンタジーを打ち砕く。
羊の出産に立ち会っても「おお」とも「ああ」とも言わず、無表情に仕事をこなしていくこの夫婦は、取り囲む自然に屈しない代わりに我関せずとばかりに、自分たちを閉じて閉じて暮らしている。
そんな彼らを遠くから見やるのは、ある羊の一団。
飼い慣らされた牧羊とは違い、小汚いなりだけれど異様なオーラを纏う羊集団がどこからか夫婦をロックオンしている。
中心のリーダー羊は、手入れされてない長い毛足が顔の下から身体をすっぽりと覆っており、まるでマントで身を隠しているよう。
黄瀬川の戦いを前に武田陣営を眼下に見下ろす風魔の一族か。
必殺必至!!
と、ここまでが映画の序章。
ストーリーはこの不穏さを通奏低音にして、ラストの爆発まで静かに静かに展開していきます。
ところで、わたしはこの夫婦に物申したい。
少しでも緩みを見せると自然にやられる、精神が崩れる、と思われるこの生活をキープするために気張っているのは分かるのだけれど、飼育している羊たちは百歩譲るとして、飼っている動物たちをファミリーにしてほしい!
見かけるやいなや尻尾をブン振りしてまとわりついてくる牧羊犬と、わざわざ室内で飼っている猫には、もう少し優しくしてあげてもいいのではないか。
犬なんて、牧羊犬として健気に働くだけでなく、通常とは違う雰囲気を察すると、いち早く飛んできてくれたり気を利かせて先回ってあげたり。
ツレない主人への無償の愛が泣かせます。
名前を呼んでヨシヨシくらいしてあげても、バチの一つも当たるまい。
猫はその性質上、淡白なのが救い。
でも、これまたなんで餌をあげてるのか謎くらいの無関心。
猫(名前は遂に呼ばれなかったのでわからない。これまた涙)が身体を寄せ合ったのが、唯一、ワケありのアダちゃんだけって…。
ギャグなのか、高尚な暗喩だったのか。