参上ルルのブログ

映画を観て思ったことを徒然と。

考えるな、感じろ

『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』──通称『エブエブ』。

中国を出てアメリカに渡りコインランドリーを生業として、何十年と頑張ってきたエヴリンとその家族。

父の介護に娘の反抗、そして税務署からの呼び出しと今日も気の休まることがない。

そんな時、エヴリンは「全宇宙にカオスをもたらす強大な悪を倒せるのは君だけだ」と宣告を受け、いきなりマルチバースを自在に移動するカオスな世界へと突き落とされる。

 

はっきり言って、好き。

シュール、カンフー、アニメ、キッチュ、サイケ、SM、おバカなどなど、モリモリのこの映画。

展開が目まぐるしすぎてとてもついていけないが、次々に繰り広げられる奇想天外な映像にびっくりして目を見張るだけで大満足だ。

映画好きのアラ傘の父が観ようものなら、「こんなのマンガだ!馬鹿馬鹿しい」と言い捨てるのが目に見えるよう。

でもね、父よ。

その感想は面白がってるわたしと同じ。それこそがこの映画の肝とみた。



まずは、基本線となる現世界。

エブリンの、紫のペラペラスウェットパンツと、何十年も着古した細かい花柄のピンクシャツに、エンジのキルティングの袖なしアウター。

なんと完璧なコーディネート。文字通り世界中のどこにでもいるザ・おばさん!

そのエブリンが家族と繰り広げるピンポンの超高速ラリー然とした英語交じりの中国語の会話は、あっという間に躁状態を作り出す。

てんやわんやの中、異世界の経験が覚醒して?カンフーマスターとなり敵との戦いに突入していく様が、まるで現代に蘇ったおばさん版サモ・ハン・キンポー。これだけで爆笑必至。

 

その後、どったんばったん、あっちだこっちだの中で、エヴリンは今までの人生の選択の場面で選ばなかった方の人生を少しずつだけれど生きることになる。

映画スター、京劇歌手、シェフ、レズビアン…。

エヴリンのように実体験することはないが、誰しもが一回くらいは思いを馳せる「じゃない方の人生」。

このエヴリンの哀愁とどの世界線でも立ちはだかる娘との葛藤が、SF仕様で哲学的な要素も加わった訳わからん物語の中でググッと心に染み込んでくるのは、さすがアカデミー賞受賞作というところ。

 

映画の中のセリフは、ほぼ覚えてないのだけれど、「だらしなくたっていい」だけは心に残った。これでわたしも赦された。エヴリン、ありがとう。

どんな人生を生きていたって、後悔ばかりの人生だろうが、気づいた時あるいは心を決めた時に、言葉を発すれば、勇気を出せば、そこで全てをひっくり返すことができるのだろう。

 

本編の終わりにタイトルが映し出される。”Everything Everywhere All At Once”の横に「天馬行空」。

考え方や行動が何ものにも拘束されず自由奔放なこと。

わたしたちはいつだってマルチバースを生きれるのかもしれない。

 

AI先生が描いた「ミシェル・ヨーのイラスト」I created this art by #aipicasso