『名探偵ポアロ:ベネチアの亡霊』ベネチアで隠遁生活を送っていたポアロは、旧知の女流作家からハロウィンの夜に行われる降霊会に誘われる。霊媒師のインチキを見破るために参加したポアロだが、恐ろしい方法で殺人が起こり、ポアロ自身も命を狙われることに───
ミステリーに疎いわたしには、エルキュール・ポアロという探偵の名前にはピンと来ない。
パイプを加えて助手がいる人ではないし、ボサボサの頭でヨレヨレのトレンチコートを着ている人でもない。
原作者のアガサ・クリスティという名を聞いて「あー、はいはい」という程度(でも、読んでる訳ではない)。
こんな、ほぼ「初めまして」のポアロなのだが(『オリエント急行殺人事件』は見たはずなのだけれど、全くもって印象がない)、かなり自分に自信があるタイプなのね。
今回ポアロがなぜベネチアにいるかというと、隠遁生活を送るため。
捜査依頼はもちろん、外部からの全ての接触を絶って悠々自適に暮らしていたのに、旧友からの「この降霊会は本物なのよ〜。いくらあなたでもムニャムニャ」という撒き餌に見事に引っかかり、「俺が解明するしかない」とホイホイおびき出されたのだ。
それにしても秋冬のベネチアというのは、こんなに薄ら寒いのか。
夏のバカンスを舞台にした映画だと、ロマンティックな歴史的建造物とキラキラ光る水面に老いも若きも浮き足立っているのに。
夏の太陽の眩さにも負けないキャッキャッウフフする美少年───夏とともにいったいどこに消えてしまうのか。
ハロウィンを迎えたベネチアは、日暮れも早く秋の嵐で水面は荒れ、堅牢な建物が立ち並ぶ様は不気味な物語の舞台にふさわしい。
子ども達が集うハロウィンパーティーも、カボチャかぶるとかそんな甘いものではない。
黒マントに由緒ある仮面舞踏会マスクのクラシックモード。
大人だったら『アイズ・ワイド・シャット』以来のアヤシイパーティーですよ。
ドキドキしちゃう。
いや、今回はホラー。違うドキドキ。
なんせ映画がめっちゃ怖い!
サブタイトルに「ベネチアの亡霊」とあるように、建物に語り継がれる怪奇話、不慮の事故で死んだ娘の霊を呼び出す降霊会など、話はどんどん不穏になっていく。
観客をビビらせる演出も、映画の前に予告で流れた『死霊館』シリーズばりに容赦ない。
え、そっち系…?
ホラー好きのわたしには想定外のお楽しみだったけれど、単にミステリーを味わおうと来ていたホラー嫌いの皆さまにおかれましては御愁傷様でございました。
この緊張感みなぎる中で、一際すごみを出してくれたのが、霊媒師役のミシェル・ヨー。
今回は敢えて東洋人と限定されない単に正体不明の怪しい人物という役柄だった。
美しく妖艶かつスタイルも抜群で、西洋人の俳優と並んでも遜色のない存在感。
花柄のプリントシャツを着てマルチバースに翻弄されてるおばさんってだけじゃない。
さすがアジアが誇る大スター。
貫禄を見せつけてくれた。
いったんは降霊会での怪奇現象のトリックを看破したポアロ。
けれど、不可解な殺人事件、そして次々と起こるホラー現象にポアロも次第に怯み出してくる。
心霊は科学で解明できるのか。
さすがのポアロも今回は詰むか、というハラハラの展開。
わたし的に改めて思ったのは、心霊現象とは「こんな可哀想な目にあったのだから幽霊になっても仕方ないね」という悲しいバックグラウンドがニコイチだということ。
裏事情を知った側の情が肩入れされて、見えてくるものがあるのだ。
そんなことをつらつらと思っていたら、最後にポアロのドヤ顔。
憎まれっ子世に憚りなり。
AI先生が描いた「名探偵ポアロ」I created this art by #aipicasso