『生きる LIVING』黒澤明の『生きる』(1952)を第二次世界大戦後のイギリスに設定を変えリメイク。
ノーベル賞作家のカズオ・イシグロの脚本は驚くほどオリジナルから醸される情調を再現した。
黒澤の『生きる』は敗戦後の日本が舞台だったが、今回の『生きる LIVING』は戦勝国であるほぼ同時代のイギリスに置き換えられた。
戦争の勝ち組であるとは言え、ロンドンも大規模な空襲を受け(『MASTERキートン』ユーリ教授の回を参照)、復興が至上命題という意味では世界中ががむしゃらな時代だったようだ。
映画のオープニングは、当時の街並みの中を急ぎ足で通勤する人々の流れを敢えて低画質のザラザラした風合いに。
まるで当時のニュース映像みたい。
最先端の技術で過去を作る。
今から100年後の人が見たら、本物の当時の映像とこの作られた映像と区別がつくかしら。
そんな映像の効果も相まって、違和感なくこういう時代の話なんだとすぐに映画に没入できた。
余命宣告を受ける主人公ウイリアムズ(ビル・ナイ)は、オリジナルの志村喬に比べると、肌のシワや声のしゃがれ具合など、さらにお爺さん感増し増し。
ルックスだけ今の長寿社会を反映したのか、一生を通じてもアジア人は欧米人に比べると若見えなのか。
何はともあれ、老人ウイリアムズだからこそ、医者から宣告された後のオロオロ感や、打ちひしがれっぷりに悲愴感ではなく悲哀感が増したのだと思う。
そしてそこからの「生きることなく人生を終えたくない」の決意と行動の力強さたるや。
あっぱれ。
きっかけとなるのは、天真爛漫な職場の部下ミス・ハリス。
灰色の役所の職場でも彼女だけは天然色をまとい人生を楽しんでいる。
彼女の若さゆえに満ち溢れる輝きに惹かれ、少々ストーカーチックになってしまうのだが、息子にも言えない余命のことを告白し、自分のこれまでの人生を省みることになるのは彼女のお陰だ。
しかし、だ。わたしはミス・ハリスに一言物申したい。
青春の明るさしかない彼女は「絶対怒らないで」と言いつつ、ウイリアムズに陰でつけたニックネーム「ミスター・ソンビ」を正直に伝える。
ミスター・ゾンビて…。いくらなんでも普通そんな酷いこと本人には言わないでしょうよ。
若さが過ぎるよ、ミス・ハリス!
AI先生が描いた「ハットを被ったイギリス紳士」I created this art by #aipicasso