『PERFECT DAYS』東京・渋谷で公衆トイレの清掃員として働く平山。毎日夜も明けきれない時刻に起き、仕事や食事をルーティンのようにこなして、日が暮れるといつものように布団の中で古本を読んでから眠りにつく。同じような日々が淡々と続くが、1日として同じ日がないことを平山は知っている。平山を演じた役所広司は、カンヌ映画祭で男優賞を受賞。監督はドイツ人のヴィム・ヴェンダース。
映画の始まり。
ランダムな影が微かに揺れる合間から光が差し込んでいる。
後から分かるがこれは木漏れ日。
最初は何を映しているんだろうと訝しんだけれど、背景に聞こえるカラスの声で「これは東京だ」と分かった。
夜中の喧騒がひと段落した朝方。
静けさの中にちょっと優しくて後を引くような鳴き声が響く。
夜遊びした後に仲間と解散して、気の抜けた帰り道で聞いたことをふと思い出した。
映画では、このカラスの鳴き声のベースの上に箒で道路を掃く音が重なり、街が動き出していく。
と、同時に平山の一日も始まる。
トイレの清掃員、平山の日常は極シンプルだ。
朝早くに起き、清掃の現場に行って集中して磨き上げる。
途中、昼休憩は神社の境内に行って樹々の写真を撮り、午後には労働を終え銭湯に行ってから行きつけの居酒屋でいつもの晩飯を食べ、本を読んで寝る。
自分から何か新しい出会いや物事を求めてはいないので、人と交流しようとしないし違う方法を取ろうともしない。与えられた職務にただ忠実に向かい合い、延々と続く「いつもの日常」から出ようとしない。
こう書くと、なんだかつまらない人生、と思い込んでしまいそうだが、なんの。
平山の毎日は心を揺さぶられることに満ちている。
その秘訣は、平山の仕事ぶりをみていると分かる。
その集中ぶりだ。
小さい鏡を使って見えない便座の縁の裏側までチェックする徹底ぶり。
わたしなんか、つい昨日もスイカゲームを何時間もやっていたけれど、心の中にはいろいろなものが浮かんでは消え浮かんでは消えだから、スイカはちっとも大きくならないし、心の雑念はなーんにも解消しないし。
平山は、一日の中で手がけることは片手で済んでしまうけれど、目の前のことに全集中なので、他の人には気づかないことが目に入り常に日々が新鮮であるようだ。
ある日は、壁の間に控えめに挟まった紙切れを捨てようとしてふと中をみてみたら、⚪︎×ゲームのマスに一つだけ○がついていたことに気づき、イタズラ心でxを記入して同じところで戻すと翌日は、その次の手の○が入っていたり。
お昼に見上げる木も日々変化していて、若芽にも気づく。
同じ一日なんてありっこない。
人に対してだって、特にこちらから親しくしようとしない代わりに、別に拒絶しているわけでもない。
同僚、同僚の片思い相手、姪、料理屋の女将、その元夫などなど。
いろいろな人々が、平山の一生からするとほんの刹那のあいだ、ふと隣にきて一緒に伴走して、また離れていく。
平山は、彼らを受け入れ真摯にコミュニケーションをとり心を動かし動かされして、離れていく彼らを見送るのだ。
この映画を好きだという仕事でお世話になっている人と話をしていたら、平山が毎日家を出るときに空を見上げるシーンに、「オレも全く同じなの。オッサンの習性?」と言っていた。
安心してください。BBAも一緒です。
晴れでも雨でも平山がグイッと顔を上げて空を見るとき、筋肉の作りか口角が上がってなんだか新しい朝を祝福するような表情に見える。
きっと、みんなこんな顔をして1日を迎えているのだろう。
AI先生が描いた「清掃員の役所広司」This art is created by #aipicasso